松本市熟年体育大学(総合体育館コース)
 ホーム > コラム一覧 >
◆もうひとつの健康づくり 愛情とコミュニケーション

◆思いやりは目に見えない薬

 1970年オハイオ大学で行われた研究では、ウサギに動脈硬化を起こす実験をするために、大変有毒な高コレステロールの餌を与えたそうです。不思議なことに一つのグループだけ症状の現れ方が60%も少ないことが明らかになります。実は、そのグループを担当していた学生がそのウサギに餌をやる前に、数分間一羽一羽ていねいに優しく抱いていたのです。

 ウサギは学生たちに抱かれるという行為を通して、「思いやり」という目に見えない薬をもらっていたのです。肌の温かさを通してウサギは安心し、安らぎを得、愛を感じとっていたのでしょう。これが動脈硬化をも防ぐほど、からだにプラスの影響を与えていたことが実証されたわけです。最新の医療技術や新薬がなかった昔の医学は、患者の話を聞き、触れて共感して治してきたと言われています。このことを科学的に裏付けるのがこの実験です。

 さらに、スタンフォード大学の実験では、集中看護育児室の乳児を二つに分け、半数の乳児にはこれまでの通りの看護を、そして残りの半数の乳児には数時間置きに15分間、中指で小さな乳児の背中をさする、といったタッチングをしたそうです。その結果、タッチングを受けた乳児の方が生存率が高かったという結果を報告しています。

 このように人とのふれ合い、思いやり、愛情は、最も古くから伝わる癒しの方法で、深い安心感と精神的滋養を与え、生きる意志を強固にするといわれています。
いまや、医療技術の進歩は日進月歩ですが、愛情や思いやりは時として最先端の医療技術を凌ぐほどの効果をもたらすのです。


◆友だちが多いと長生きする?

 コミュニケーションとは、相互情報交換、分かりやすく言いますと、相手と話し合うということです。スタンフォード大学の実験では、86人の転移性乳癌の患者で、2年以内に死亡すると見られている人を無作為に二つのグループに分け、一方は通常行われる放射線・化学療法と投薬の治療をします。そして、もう一方には同じ医学的治療に加えて、カウンセリングのような集団治療に週に一度出席するというノルマを科しました。数年後、第一群の医学的治療のみの女性は3人を残し、全員亡くなってしまいましたが、カウンセリングなどの集団療法を行った人は全員が医学的療法のみの患者よりも平均で2倍も長く生きていました。

 既婚癌患者が未婚癌患者よりも長生きするという類似した調査結果も報告されています。社会的つながりをたくさん持っている人は、そうでない人よりも長生きする。つまり、人と人とのふれ合いの中で行われるコミュニケーションは心を豊かにし、病いと闘う身体にも好影響をもたらすわけです。私たちが生きていくうえで、コミュニケーションは非常に大切なもの。定年後にがっくり年をとる男性とますます元気な女性、両者の違いも何だか理解できますね。


◆社会参加が大脳を活性化

 1969年からの子どの大脳を調べている研究によると、現在の子どもに脳の発達の遅れが見られるそうです。その原因は、子どもの遊びが野山を駆け回るといった動的遊びから、テレビ・テレビゲームといった静的遊びに移行し、人とのふれ合いと運動が激減したからではないかと言われています。ふれ合いと運動の欠如は脳に影響を与えるという報告は多数あるのですが、これは子どもに限ったことではありません。

 結婚し子どもが生まれた時、人とのふれ合いと運動は比較的自然におこなわれますが、子どもが巣立ち、仕事も退職となると、環境的にも静的要素が増加していくものと思われます。動物実験では仲間とのふれ合いがなくなると運動が減少していくという報告があります。

 人とのふれ合いの中には思いやりがあり、そこには愛情が存在し、それらのことが癒す能力を持ちうることが、最近の研究でわかってきました。子どもが巣立ち退職しても、いろいろな会に参加し、趣味を持って夢中になり、それを仲間と共有できる喜びを味わうことによって、大脳は活性化され、いきいきと生きることが可能になると思われます。
(T)
コラム一覧